平成29年度税制改正大綱の主なポイント(法人課税編)

平成28年12月8日、平成29年度税制改正大綱が閣議決定されました。
今回は、法人課税の改正項目に絞って、以下その主なポイントを解説させていただきます。

≪法人課税≫
1. 大企業並み中小法人に対する中小特例の適用除外
これまで法人税法で中小企業に分類される「資本金1億円以下の会社」は、中小企業向けの減税制度を利用することができましたが、平成31年4月1日以後に始まる事業年度から、「平均所得金額(前3事業年度の所得金額の平均)が15億円を超える企業」については資本金が1億円以下であっても利用することができなくなります。

これは、企業規模(売上の規模など)としては大企業と考えられるような会社が、意図的に資本金を減少させることで中小企業向けの減税制度を利用するケースが増えてきたことから、税負担を軽減することで中小企業の活力を強化するという制度本来の趣旨が損なわれないように、一定以上の規模の会社が中小企業向けの制度を利用することを防ぐためです。

「資本金1億円以下」「平均所得金額15億円超」の会社で利用できなくなる中小企業向けの減税措置は以下のとおりです。
①中小法人等の法人税軽減税率の特例
800万円以下の法人税率15%(大企業は23.4%)
②所得拡大促進税制の要件と上限額
●要件:給与の増加率3%以上(大企業は平成28年度が4%、平成29年度が5%)
●税額控除の上限:法人税額の20%(大企業は法人税額の10%)
③研究開発費税制(総額型の税額控除率)
税額控除率12%~17%(大企業は6%~14%)
④中小企業投資促進税制
機械装置等の設備を導入した場合、臨時償却30%もしくは税額控除7%
(資本金3,000万円超の会社は臨時償却30%のみ)
⑤中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例
取得価額が30万円未満である減価償却資産について、取得価額を損金の額に算入
することができる
⑥商業・サービス業・農林水産業活性化税制
経営改善設備を取得した場合、取得価額の30%特別償却もしくは税額控除7%

【留意点】
中小企業向けの減税措置は上記以外にもありますが、今回税制改正の対象となっているのは、一定の期限内で認められる制度(政策減税)で、期限を設けずに認められる制度(恒久減税)は対象外となっています。
したがって、以下の制度は、所得に関係なく資本金1億円以下の会社なら利用することができます。
●法人税の軽減税率19%
●貸倒引当金の損金算入
●欠損金の繰越
●欠損金の繰戻還付 など

2.競争力強化のための研究開発税制の見直し
平成29年4月1日以後に開始する事業年度から研究開発税制が見直されます。
主な変更点は、「試験研究費の範囲拡大」と「税額控除率の引き上げ」の2点です。
研究開発を促して高付加価値の製品やサービスを生み出すことで、経済成長を促進することが目的です。
(1)試験研究費の範囲
(税制改正案の試験研究費の範囲)
製品の製造又は技術の改良、考案若しくは発明、『新たなサービスの開発』に係る試験研究のために要する原材料費、人件費及び経費のほか、他の者に試験研究を委託するために支払う費用

従来は製造業を前提として新製品の開発や既存製品の機能を大幅に改善するために行う試験研究費を対象としていましたが、今回の税制改正では、上記の中の『新たなサービスの開発』が加えられることとなりました。

ここでいう『新たなサービスの開発』は、ビッグデータを利用した新サービスの開発を想定したものであり、飲食店の新しいメニューの開発などサービス業全般で取り組む新サービスに係る試験研究費が加わるというわけではありません。
たとえば、センサーを装着して従業員の行動をに関するデータを収集・分析して、従業員の最適な行動を見つけ出したり、経験豊富な農家にカメラやセンサーを装着してもらい、農作業に関するデータを収集・分析して、農作業の最適な判断を数値により把握して新規に農業へ従事する農家への支援サービスを開発する、などです。
実際には、専門的な情報収集と分析を必要としており、その範囲は非常に限られているといえます。

(2)研究開発税制の変更点
現在の研究開発費税制は、以下の4つのタイプで構成されています。
①試験研究費の総額に対して一定率を税額控除する『総額型』
②過去3年の試験研究費の平均より増加した場合に税額控除する『増加型』
③試験研究費の対売上比率が10%を超えた場合に税額控除する『高水準型』
④大学や研究機関等への委託(or共同開発)による試験研究の費用について税額控除する『オープンイノベーション型』

このうち、②の『増加型』については、『総額型』に統合した上で廃止されます。
また、③の『高水準型』については、期限を平成30年まで延長して継続することになります。

次に、①の『総額型』については、税額控除率が変更されることになりました。
≪総額型の税額控除額≫
試験研究費 × 税額控除率(注1)
(注1)税額控除率に試験研究費の増減を加味することになります。

具体的には、以下のとおりです。
≪総額型の現行≫
試験研究費割合          税額控除率
10%以上            10%
10%未満      8%+試験研究費割合(注2)×0.2
(注2)試験研究費割合
試験研究費の額 ÷ 過去3年の平均売上金額

≪総額型の改正案≫
増減割合             税額控除率
5%超        9%+【増減割合(注3)-5%】×0.3
5%以下       9%-【増減割合(注3)-5%】×0.1
-25%未満              6%
(注3)増減割合
試験研究費 - 比較試験研究費(注4)
比較試験研究費(注4)
(注4)比較試験研究費
過去3年の試験研究費の平均

最後に、④の『オープン・イノベーション型』については、制度を使いやすくするための変更が行われます。
具体的には、まず、オープン・イノベーション型の研究開発費のうち、共同研究・委託研究の相手方が支出する費用のうち自社で負担するものについては、費目による限定(「原材料費」「人件費」「旅費」「経費」「外注費」に限定)されていましたが、改正案ではこの限定がなくなり、「研究に要した費用」に変更となります。
次に、契約変更前に支出した費用について、その契約に係るものであることがはっきりしていて、契約変更日と同じ年度内に支出された費用については特別試験研究費の対象となります。
さらに、共同研究・委託研究であることを証明するために、相手方から費用の明細書と領収書を取り寄せる必要がありましたが、共同研究・委託研究の相手方の事務処理負担を軽減するため必要がなくなりました。

3.中小企業投資促進税制の強化と地域中核企業向け設備投資促進税制の創設
(1)中小企業投資促進税制の強化
従来の「中小企業投資促進税制」の上乗せ措置(生産性向上設備の即時償却などの制度)が、「中小企業経営強化税制」として新設されることになりました。
内容については、従来の「中小企業投資促進税制」の上乗せ措置とほぼ同じですが、対象資産に器具備品、建物附属設備が追加されている点がこれまでとの違いです。
(2)地域中核企業向け設備投資促進税制
地域中核企業向け設備投資促進税制は、地域の中核企業が、地域経済の活性化が見込める新しいビジネスを始める時に行う設備投資に対して、特別償却または税額控除が受けられる制度です。
地域未来投資促進法(仮称)を前提とする制度ですが、法律の詳細が明らかではなく、制度の概要をまとめておきます。
●適用対象資産
特定地域中核事業施設等(注)を構成する資産として購入する機械装置、器具備品、建物、建物附属設備、構築物
(注)その法人の「特定承認地域中核事業計画」に定められた施設、設備で取得価額の合計が2,000万円以上のもの
●適用要件
・青色申告書を提出する法人
・購入した資産を「地域中核事業」のために使う
・対象資産の上限は合計100億円
●選択適用(①と②のいずれか)
①特別償却
・機械装置、器具備品:取得価額の40%
・建物、建物附属設備、構築物:取得価額の20%
②税額控除(控除限度額:法人税額の20%)
・機械装置、器具備品:取得価額の4%
・建物、建物附属設備、構築物:取得価額の2%

4.賃上げ促進のための所得拡大促進税制の見直し
所得拡大税制が見直されます。適用時期は、平成29年4月1日以後開始する事業年度からと見込まれます。
以下、中小企業者等のついてのみ解説します。
●適用要件
・給与等支給額が平成24年度(基準年度)より3%増加
・給与等支給額が前年度以上に増加
・平均給与等支給額が前年度を超えて増加
●税額控除
<平均給与等支給額が前年度より2%以上増加の場合>
平成24年度からの増加額の10%に前年度からの増加額×12%(現行:10%)を上乗せ
<平均給与等支給額が前年度より2%未満増加の場合>
平成24年度からの増加額の10%(現状維持)
●見直しのポイント
中小企業者等に対する12%上乗せ(改正点)は、社会保険料の負担増への配慮と考えられます。

以上

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