平成29年度税制改正大綱の主なポイント≪個人所得課税編≫

平成28年12月8日、平成29年度税制改正大綱(注)が閣議決定されました。
今回は、個人所得課税の改正項目に絞って、以下その主なポイントを解説させていただきます。
(注)税制改正大綱とは、翌年度の税制改正法案を決定するのに先立って、与党や政府が発表する税制改正の原案のことで、通常、毎年12月半ばに発表されます。政府が国会に提出する税制改正法案の元になります。

≪個人所得課税≫
1. 配偶者控除・配偶者特別控除の見直し
(1)配偶者控除・配偶者特別控除の仕組み
具体的な税制改正の内容の説明に入る前に、配偶者控除と配偶者特別控除の基本的な仕組みを説明させていただき
ます。
配偶者控除・配偶者特別控除は、個人所得税の申告において利用できる所得控除の1つであり、配偶者(夫、妻)がいる人に認められるものです。

≪個人所得税の計算方式≫
●個人所得税:(所得 - 所得控除)×税率 - 税額控除

上記の計算式の通り、所得控除が大きいほど支払う税金が少なくなることになります。

今回の改正前の配偶者控除は、配偶者の年収が103万円までの場合、世帯主の所得控除が38万円認められるという制度でありました(いわゆる『103万円の壁』)。
また、配偶者特別控除は、配偶者の年収が103万円超141万円までの場合、世帯主の所得控除が38万円から2万円まで(年収が上がるにしたがって所得控除の額が減少)認められるという制度でありました。

(2)今回の改正のポイント
今回の税制改正は、『配偶者控除』と『配偶者特別控除』の対象を広げる代わりに、世帯主の年収の条件が加わるという、2段構えの改正となります。
●改正ポイント①
配偶者控除の最大控除額(38万円)を受けられる対象が、配偶者の合計所得金額85万円(給与所得のみの場合、年収150万円に相当)までに拡大されます。
●改正ポイント②
配偶者特別控除の対象が、配偶者の合計所得金額123万円(給与所得のみの場合、年収201万円に相当)までに拡大されます。
●改正ポイント③
世帯主の合計所得に応じて、段階的に控除額が減少します。
≪配偶者控除の場合≫
(世帯主の合計所得)      (所得控除の控除額)
900万円以下            38万円
900万円超~950万円以下      26万円
950万円超~1,000万円以下     13万円
1,000万円超            0
●改正ポイント④
世帯主の合計所得が1,000万円(給与収入のみの場合、年収1,220万円に相当)を超えると『配偶者控除』『配偶者特別控除』とも利用できなくなります。

配偶者の年収要件を緩和することによって、「今までより多く働いても税金面で損をしない」環境をつくり、女性や若者の社会進出を促すと同時に、世帯主の年収要件を新たに設けて高所得者層の税負担を増すことでバランスをとることとなります。

【注意点】
①給与所得控除(最低65万円)、基礎控除(一律38万円)に改正はないため、現行どおり、配偶者本人の給料が年収103万円を超えると所得税の税負担が発生する点に注意が必要です。住民税も同様であります。
②健康保険料や厚生年金保険料等の社会保険料の増加、会社からの配偶者手当(家族手当・扶養手当等)の廃止・縮減により、世帯全体の手取りが減少する可能性があるため、税金以外の影響も考慮する必要があります。

2. NISAの見直し
(1)NISAとは
NISA(Nippon Individual Savings Account)は、証券会社で株式や債券などの金融商品を取引するための口座で、この口座を通じて取引した金融商品から発生する配当(投資信託の運用益)、売却益が非課税となります。
現行NISAを使って取引できるのは、上場株式、公募株式投信、REIT、ETFなど(今回創設される積み立てNISAで購入できるものは、購入できる)で、購入額で年間120万円という上限が設けられていますが、NISA以外の口座では金融商品から発生する利益に20.315%の税金がかかるため、NISAで取引する税務上のメリットは大きいといえます。また、現行NISAの非課税で運用できる期間は、最長5年(ただし、期間経過後に翌年の枠を使って保有し続けることは可能)です。

(2)積立NISAの創設
今回の税制改正で創設される『積み立てNISA』は、NISAで取引できる金融商品の種類を絞った上で、税金上のメリットを増やす制度です。
≪積立NISAの特徴≫
①NISAで取引できる金融商品は、定期・定額で投資(積み立て)するものに限定となります。
②NISAで取引した金融商品に関する確定申告は不要です。
③NISAで取引する金融商品は、購入額で年間60万円の制限があります。
④NISAで管理する金融商品を保有できる期間は、最長で20年間です。

(3)現行NISAと積み立てNISAの両制度の関係
いずれかのNISAを選択適用する必要があります(両制度の併用不可)。      

以上

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