平成27年12月24日、平成28年度税制改正大綱(注)が閣議決定されました。
中小企業および個人に関わってくることが多いと思われる項目に絞って、以下ポイントを解説させていただきます。
(注)税制改正大綱とは、翌年度の税制改正法案を決定するのに先立って、与党や政府が発表する税制改正の原案のことで、通常、毎年12月半ばに発表されます。政府が国会に提出する税制改正法案の元になります。
1.法人税率の引下げ
今回の税制改正の一番の目玉といえるものであり、以下のとおりであります。
平成27年度 平成28・29年度 平成30年度
法人実効税率 32.11% 29.97% 29.74%
確かにニュースなどでも「法人税実効税率が20%台に引き下げ」と取り上げられていますが、引き下げの対象になるのは所得(利益)が800万円を超える部分の税率が23.9%→23.4%→23.2%と下がるため、年間800万円以下の利益の企業には影響はありません。
2.建物付属設備、構築物の減価償却方法が定額法に統一
減価償却について、平成28年4月1日以後に取得する建物と一体的に整備される建物付属設備や、建物同様に長期安定的に使用される構築物について、定率法が廃止され、償却方法が「定額法」に一本化されます。
この改正は、所得税も同様であります。
3.中小企業者等の機械装置の固定資産税(償却資産税)の特例措置
「中小企業の生産性向上に関する法律(仮称)」の制定を前提に、中小企業者等がこの法律の施行日から平成31年3月31日までの間において、認定生産性向上計画(仮称)に記載された生産性向上設備(仮称)のうち一定の機械装置の取得をした場合には、その機械装置に係る固定資産税(償却資産税)について、課税標準を最初の3年間、価格の2分の1とする措置が創設されます。
「中小企業の生産性向上に関する法律(仮称)」は、平成28年1月4日召集第190回通常国会に提出される予定です。
4.中小法人課税と少額減価償却資産特例
中小企業者等の少額減価償却資産(30万円未満)の取得原価の損金算入の特例の適用期限が2年延長されます(適用期限:平成30年3月31日まで)。
ただし、対象となる法人から常時使用する従業員の数が1,000人を超える法人が除かれます。
この改正は、所得税も同様であります。
5.空き家を売却した際の譲渡所得の特別控除の導入
相続時から3年を経過する日の属する年の12月31日までに、被相続人の居住用財産を相続した相続人が、その家屋(耐震性のない場合は耐震リフォーム後のものに限り、その敷地を含む。)または除却後の土地を譲渡した場合には、その家屋または除却後の土地の譲渡益から3,000万円を控除することができます。
≪要件≫
①昭和56年5月31日以前に建築された家屋(マンション等の区分所有建築物は除く)であること
②相続発生時に、被相続人以外に居住者がいなかったこと
③譲渡をした家屋または土地は、相続時から譲渡時まで、事業、貸付、居住の用に供されていたことがないこと
④平成28年4月1日から平成31年3月31日までの間の譲渡であること
⑤譲渡価額が1億円を超えないこと
6.三世代同居に対応した住宅リフォームに係る税額控除制度の導入
三世代同居に対応した住宅リフォームに関し、借入金を利用してリフォームを行った場合や自己資金でリフォームを行った場合、平成28年4月1日から平成31年6月30日までの間に居住の用に供したときは、次のいずれかの税額控除制度を適用できます。
①ローン(償還期間5年以上)の年末残高1,000万円以下の部分に一定の割合を乗じた金額を5年間税額控除
②三世代同居改修工事の標準的な費用の相当額の10%相当額を税額控除
7.スイッチOTC薬控除(医療費控除の特例)の導入
OTC薬とは、医師に処方してもらう医療用医薬品ではなく、薬局やドラッグストアなどで買える「一般用医薬品(市販薬、Over The Counter Drug)」のことです。
適切な健康管理の下で医療用医薬品からの代替を進める観点から、検診、予防接種等を受けている個人を対象として、スイッチOTC医薬品の購入費用についてセルフメディケーション(自主服薬)推進のための所得控除制度(医療費控除の控除額計算上の特例措置)が導入されます。これまでの医療費控除といずれか一方のみ受けられます(選択適用)。
(1)対象者
医師の関与がある、①特定健康診査、②予防接種、③定期健康診断、④健康診査、⑤がん検診を受けている個人(自己、自己と生計を一にする配偶者その他の親族)
(2)適用時期
平成29年1月1日から平成33年12月31日までの各年
(3)控除金額の計算
控除対象医薬品の合計額-保険金などで補てんされる金額-12,000円
(4)控除限度額
最高で88,000円
8.企業創生応援税制(企業版ふるさと納税)の創設
地方公共団体が地方創生のために効果的な事業を進めていく際に、事業の趣旨に賛同する企業が寄附を行うことにより、官民挙げてその事業を推進することができるよう、地方創生応援税制が創設されます。
青色申告書を提出する法人が、地域再生法の改正法の施行日から平成32年3月31日までの間に、認定地域再生計画に記載された地方創生推進寄附活用事業(仮称)に関連する寄附金を支出した場合には、一定額を税額控除する。
なお、三大都市圏にある地方交付税の不交付団体は対象がであり、また、主たる事務所の立地団体への寄附も対象外であります。
≪控除金額の計算≫
①法人事業税
寄附額×10%(控除額上限:法人事業税20%)
②法人住民税
寄附額×20%(控除額上限:法人住民税20%、法人税5%)
※控除しきれない分と寄附額×10%のいずれか少ない金額を法人税で控除
9.法人税の交際費課税の適用期限の延長
交際費等の損金不算入制度および次の①、②の特例についてその適用期限が2年延長されます。
①支出交際費等の額のうち、飲食のために支出する費用(社内接待費を除く)の額の50%が損金算入可能
②中小法人は、定額控除額(年800万円)の損金算入制度と①の制度の選択適用
≪適用時期≫
平成30年3月31日まで(現行:平成28年3月31日まで)に開始する事業年度
10.車体課税の見直し
平成29年4月の消費税率10%への引上げ時に、自動車取得税を廃止するとともに、自動車税及び軽自動車税において、自動車取得税のグリーン化機能を維持・強化する環境性能割が導入されます。
11.消費税の軽減税率
平成29年4月から軽減税率制度が導入されます。
≪対象品目≫
①酒類及び外食を除く飲食料品
②新聞の定期購読料
≪軽減税率≫
8%(国分:6.24%、地方分:1.76%)
平成33年4月から適格請求書等保存方式を導入する予定であり、それまでの間は簡素な方法とするとともに、税額計算の特例を設けることとされます。
12.農地保有に係る課税の強化・軽減
≪課税の強化≫
農業委員会から農地中間管理機構との協議の勧告を受けた遊休農地について、通常の農地より固定資産税の評価額を引上げ。
≪課税の軽減≫
所有する全農地を農地中間管理機構に10年以上貸し付けた場合は、固定資産税等の課税標準を最初の3年間価格の2分の1等とする特例措置を創設。
以上