平成28年3月決算における法人税申告の留意点について

平成28年3月期決算における法人税実務に影響を与える主な項目は、平成27年度税制改正が中心となりますが、適用開始時期の関係で、一部平成26年度税制改正による事項も含まれていますので、これらを合わせて主なポイントを解説させていただきます。

1.法人所得等に係る税率の変更
(1)法人税率の引下げ
国際競争力強化による成長戦略の観点からの法人税改革として、「課税ベースを拡大しつつ税率を引き下げる」という方針のもと、法人税の税率が引き下げられました。
中小法人の軽減税率の特例及び公益法人等の税率については、「引き続き課税全体の見直しの中で検討する」とされ、変更は見送られました(法法66、措法42の3の2、67の2、68)。

≪中小法人以外の普通法人≫
                改正前税率      改正後税率
●中小法人以外の普通法人     25.5%        23.9%

●中小法人、一般社団法人、人格のない社団等
年800万円以下部分       19%          19%
                (15%)        (15%)
年800万円超部分       25.5%        23.9%
(注)カッコ内は、租税特別措置法の中小企業者等の法人税率の特例(措法42の3の2)による税率
②適用関係
この改正は、平成27年4月1日以後に開始する事業年度から適用となります。

(2)地方法人税(国税)の創設と法人住民税法人税割税率の改正
①改正の概要
地方法人課税の偏在を是正するために、平成26年度税制改正において、地方法人税(国税)が創設され、税額は「各課税事業年度の基準法人税額(課税標準)に4.4%の税率を乗じて計算した金額」とされました。
具体的には、下記のとおりとなり、改正前の法人住民税法人税割額と、改正後の地方法人税と法人住民税法人税割の合計額では税負担に変化はないことになります。
             改正前標準税率       改正後標準税率
地方法人税(国税)        ―            4.4%
道府県民税法人税割       5.0%          3.2%
市町村民税法人税割      12.3%          9.7%
合   計          17.3%         17.3%
②適用関係
この改正は、平成26年10月1日以後に開始する事業年度から適用となります。

(3)法人事業税、地方法人特別税率の改正
①改正の概要
平成26年度税制改正においては、地方法人課税の偏在を是正するために、上記2.と合わせて、地方法人特別税の税率が引き下げられるとともに、法人事業所得割の税率が引き上げられました。
さらに、平成27年度税制改正においては、法人税率の引き下げにともなう課税ベースの拡大のために、法人事業税のうち外形標準課税の割合を4分の1から8分の3に拡大することとされ、外形標準課税対象法人においては、これに見合う法人事業所得税を縮減することとされました(地法72の24の7①)。
具体的には、下記のとおりとなります(ただし、特別法人は省略します)。

≪外形標準課税対象法人≫
                改正前標準税率      改正後標準税率
●法人事業税
・付加価値割              0.48%         0.72%
・資 本 割              0.2%          0.3%
・所 得 割
所得400万円以下部分          1.5%         1.6%
所得400万円超800万円以下部分     2.2%         2.3%
所得800万円超部分           2.9%         3.1%
●地方法人特別税           148.0%        93.5%

≪その他の法人≫
                  改正前標準税率      改正後標準税率
●法人事業税
・付加価値割               ―             ―
・資 本 割               ―             ―
・所 得 割
所得400万円以下部分          2.7%          3.4%
所得400万円超800万円以下部分     4.0%          5.1%
所得800万円超部分           5.3%          6.7%
●地方法人特別税            81.0%        43.2%

②適用関係
平成26年度税制改正における、地方法人特別税の引下げと、法人事業税所得割の引上げについては、平成26年10月1日以後に開始する事業年度から適用されています。
また、平成27年度税制改正における、外形標準課税対象法人の付加価値割及び資本割の引上げと所得割の引下げについては、平成27年4月1日以後平成28年3月31日までの間に開始する事業年度に適用されます。

(4)法人事業税資本割の課税標準及び法人住民税均等割の税率適用区分に関する改正
①改正の概要
法人事業税資本割の課税標準及び法人住民税均等割の税率適用区分の基準に用いられる「資本金等の額」については、自己株式の取得や合併等で大幅に減額される場合があり、法人によってはゼロ又は僅少となる問題点がありました。
このため、概ね事業規模に応じた課税が行われるようにするために、「資本金等の額」が貸借対照表における「資本金+資本準備金」の額を下回る場合には、「資本金+資本準備金」の額を法人事業税資本割の課税標準及び法人住民税均等割の税率適用区分の基準として用いることとなりました(地法72の21、地法52④、地法312⑥)。
また、すでに措置されている法人事業税資本割の課税標準と同様に、無償増減資による純資産の変動が、法人住民税均等割の税率適用区分の基準である「資本金等の額」にも反映されることとなりました(地法23①、地法292①)。
②適用関係
この改正は、平成27年4月1日以後に開始する事業年度から適用となります。

2.欠損金の繰越控除
(1)改正の概要
平成27年度税制改正においては、法人税率の引下げにともなう課税ベースの拡大のために、中小法人以外の普通法人の青色欠損金、災害損失金、連結欠損金の控除限度額について、改正前は100分の80とされていた控除限度割合を、下記のとおり、段階的に引き下げられることとされました。
また、これに合わせて、すべての法人の欠損金の繰越期間が9年から10年に延長されています(法法57①、58①、81の9①)。
事業年度開始日              控除限度割合
平成27年4月~平成29年3月          65/100
平成29年4月~                 50/100
なお、更生手続等で経営再建中の法人及び新設法人については、一定期間全額の控除が認められる特例が設けられています(法法57⑪、58⑥、81の9⑧)。
(2)適用関係
この改正は、平成27年4月1日以後に開始する事業年度から適用となります。

3.受取配当金の益金不算入
(1)改正の概要
法人税率の引下げにともなう課税ベースの拡大のために、受取配当金の益金不算入額の縮減が行われています(法法23)。
①益金不算入となる配当の額の縮減
公社債投資信託以外の証券投資信託の収益の分配額については、全額益金算入とされました(改正前は、「収益の
分配の2分の1又は4分の1の額の100分の50」が益金不算入とされていました。)。
②株式等の区分の見直し
受取配当金の益金不算入の対象となる株式等の区分及びその配当等の益金不算入割合を以下のとおり変更することとされました。
なお、負債利子については、「関連法人株式等」のみ控除すべきこととされました(改正前は、「関連法人株式等」及び「上記以外の株式等」が負債利子控除の対象とされていました。)。
≪改正前≫
区  分           益金不算入割合
完全子法人株式等         全  額
関係法人株式等(注1)        全  額
上記以外の株式等         50/100
≪改正後≫
区  分           益金不算入割合
完全子法人株式等         全  額
関連法人株式等(注2)        全  額
その他の株式等(注3)        50/100
非支配目的株式等(注4)       20/100
(注1)内国法人が、他の内国法人の株式を保有する場合で、発行済株式総数又は総額の25%以上を保有し、その配当等の支払に係る効力が生ずる日以前6ヵ月以上継続保有するもの。
(注2)内国法人が、他の内国法人の株式を保有する場合で、配当基準日において発行済株式総数又は総額の3分の1超を保有し、その配当等の額の計算期間の初日からその計算期間の末日まで継続保有するもの。
(注3)内国法人が、他の内国法人の株式を保有する場合で、配当基準日において発行済株式総数又は総額の5%超3分の1以下を保有し、その配当等の額の計算期間の初日からその計算期間の末日まで継続保有するもの(完全子法人株式等を除く)。
(注4)内国法人が、他の内国法人の株式を保有する場合で、配当基準日において発行済株式総数又は総額の100分の5以下を保有するもの。
(2)適用関係
この改正は、平成27年4月1日以後に開始する事業年度から適用となります。

4.所得拡大促進税制の改正
(1)改正の概要
所得拡大促進税制は、平成25年度に創設され、給与等支給額を基準事業年度と比較して一定割合増加させるなど
一定の要件を満たした場合、基準年度と適用年度の給与等の増加分に対し10%の法人税の税額控除(中小企業者等は20%)ができる制度であります。
当初、平成25年4月1日から平成28年3月31日までの間に開始する事業年度の3年間とされていましたが、平成30年3月31日までの2年間延長されました。
ただし、①雇用者の数が増加した場合の法人税額の特別控除(措法42の12の2)の適用を受ける事業年度、②解散(合併による解散を除きます。)の日を含む事業年度及び③清算中の事業年度においては、適用できません。
(2)具体的な要件の改正
①基準事業年度からの給与等支給額の増加率の割合の変更
(改正前) 5%
(改正後) ※(  )内は中小企業者等
・平成27年4月1日~平成28年3月31日に開始する事業年度:3%(3%)
・平成28年4月1日~平成29年3月31日に開始する事業年度:4%(3%)
・平成29年4月1日~平成30年3月31日に開始する事業年度:5%(3%)
≪基準事業年度とは≫
基準事業年度とは、平成25年4月1日以後に開始する各事業年度のうち最も古い事業年度開始の日の前日を含む事業年度をいいます。
②平均給与等支給額の増加基準の変更
前年度『以上』から前年度を『上回る』条件に改正されました。
③平均給与等支給額に平均に含める給与の額
(改正前)国内雇用者に対する給与等
(改正後)継続雇用者(注)に対する給与等
(注)継続雇用者とは
継続雇用者とは、適用を受けようとする事業年度及び前事業年度において給与等の支給を受けた雇用者となります。そのため、例えば、適用年度に新しく入社した方や前事業年度中に退職された方は継続雇用者には該当しません。
④出向者の取扱い
出向者については、出向先が賃金台帳に記載をしている場合、出向先が出向元に支出した出向者に対する給与負担の額を、出向先で給与等支給額に含めることができます。出向元は受け取った給与負担金を給与等支給額から除外することとなます。

以上

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